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医療最前線 > Report No. 02
ABC検診による胃癌リスクの評価
渡邊内科クリニック(神奈川県小田原市栄町)
院長
渡邊 清治 内科医師

ピロリ菌除菌後も、癌になるリスクは付きまといます。
ピロリ菌を除菌したからと言って、安心せずに、その後も定期的に
癌の検査を受けることが必要なんです。

─ ピロリ菌がいる人といない人で、生まれた年代、性別、生活習慣などの違いはあるのでしょうか?
ピロリ菌自体は土壌菌、いわゆる土の中にいる菌です。
それが複数回にわたって胃の中に送り込まれなければ、胃の中で生息しない。
ということは、ピロリ菌がくっついているものを食べたり、飲んだり、そういうことが必要になってきます。
一番確率が高いのは、井戸水とか湧き水です。
そういう所にはピロリ菌は確実にいますから、それをある一定期間飲む習慣があった人は、ピロリ菌が感染している可能性が高くなりますね、地方や時代にもよりますが。
特に小さい子供、排除する能力が備わっていない小さい時に、知らないうちに感染してしまう人が多いです。
あとは、昔は川で泳いだりすることも多かったと思います。
海に関してのデータはないですけれども、川には絶対いますから。
やはり拾い食いは良くないですね、キャンプの時も「生水は飲んじゃよくない」、「一回煮沸しなさい」と言われますよね。
私は小さい頃、ボーイスカウトをやっていたんですが、そういう風によく言われました。「川の水は飲むもんじゃない」、と。
特に、一回や二回でなく頻繁に飲むのが危険です。
─ 歳とか性別とか遺伝は関係ないのですね?
ピロリ菌に感染しているかどうかというのは、生活環境が一番関わってきますね。
ただし、「癌のできやすさ」はその人たちの体質なので違います。
「できやすさ」にそれらの要因は関係あります。
遺伝子の構造ですからね。遺伝的な体質が関わってきます。
─ 子供でも感染しているということは、小さい子供でもABC検診をやった方がいいのでしょうか。
何歳未満というデータは無いと思います。
10歳に満たない子たちの検査はナンセンスかもしれないが、20歳過ぎたような人たちは検査をして、なるべく早めにピロリ菌を退治することが必要と言われています。
40歳になれば、健康診断の対象なります。
ABCを保険で導入している所はまだまだ少ないです。
人間ドックに組み込むというのも必要だと思います。
─ ピロリ菌を退治できたら、その後はどうするのでしょうか?退治できたらそれで終わりということで良いのでしょうか?
さっき言ったように、ピロリ菌がいたという歴史を持っている人は、その後何年たっても癌ができてくる可能性があります。
いなくなった後も、癌のリスクがあります。
細胞にインプットされた発癌シグナルが残っている可能性があるんです。
癌が発症するリスクは残り続けるんですね。
ですから、検査はその後も定期的に受ける必要があります。
これは続けていかなくてはなりません。
発癌に関しては、防御因子と発癌に関与する遺伝子があります。
これは人のDNAにある遺伝子で、それらがいくつも複雑に調節しあっています。
で、そこの何かを増やすとか、減らすとか、そういうことをして、癌が発症するんです。
ですから、ピロリ菌によって遺伝子発現がいじられた細胞が残っている以上、癌になるリスクが付きまとってきます。
除菌後もリスクは付きまとうんです。
ピロリ菌を除菌したからと言って、安心せずに、その後も定期的に癌の検査を受けることが必要なんです。
(2014年7月 インタビュー)