医療最前線 ─近所の名医にきく─
医療最前線 > Report No. 02
ABC検診による胃癌リスクの評価
渡邊内科クリニック(神奈川県小田原市栄町)
院長
渡邊 清治 内科医師

小田原駅すぐ近くに所在する渡邊内科クリニックは、内科・消化器科を専門とした医院である。
医院長の渡邊医師は、地元の患者さんの病気の診断・治療のほか、内視鏡を用いた消化管(胃・大腸)の検査や、人間ドックなども行っている。
現在、広く行われている、胃がんリスクを一回の注射で簡単に調べることができるという ABC 検診について、渡邊医師に話を伺った。
1本血液を採取するだけで、「胃癌になるリスクの高さ」がわかります。
また、判定結果がすぐに出るのも特徴です。
─ まず始めに、ABC 検診の概要について教えてください。
「胃癌のなりやすさ」というものを、血液を調べて検査をするのがABC検診です。
ですから、「ABC検診=胃がん検診」ではありません。
あくまでも、「胃癌になるリスクの高さ」を調べるのが、ABC 検診になります。
現在、日本人の胃がんの多くが、ピロリ菌(ヘリコバクターピロリ)が感染することが原因となって発症することが分かっています。
そのため、ABC 検診では、ピロリ菌という菌の感染の有無を調べることがメインとなります。
その菌がいるか・いないか、また、それがベースで胃にどういう変化が起こっているのかが、ABC 検診では大まかにわかります。
また、1本血液を採るだけで、多くの人のスクリーニングに役立つところが、ABC検診の存在価値でもあります。
─ ABC 検診が取り入れられる以前の、これまでの胃がんの検診というのはどういったものだったのでしょうか?
メインはバリウム検診です。
それよりも内視鏡の方が色々な面で患者様の負担が少ないのですが、手間とコストが掛かるのが内視鏡のデメリットでした。
─ ピロリ菌が関係しない胃がんもあるのですか?
あります。
しかし、それは特殊な形の胃がんで、ピロリ菌がなくて胃がんになる人の割合は一割に満たない。
ほとんどの胃がんは、ピロリ菌をみれば、リスクがわかってくるんです。。
─ 胃がんになるリスクは、ピロリ菌の有無だけをみれば分かるのでしょうか?
ピロリ菌の他に、胃の状態も大きく関わってきます。
ピロリ菌が感染することによって、慢性胃炎という状態になります。
慢性胃炎のひとつのパターンに、萎縮性胃炎というのがあります。
これは、胃の壁、粘膜が薄くなっていってしまう病気ですね。
この萎縮性胃炎が進んでいってしまうと、胃癌が発症する母地になります。
萎縮性胃炎のところから胃がんが出やすくなるわけです。
─ 自分の胃が萎縮しているというのは、自覚症状でわかるものなのでしょうか。
胃の委縮に関しては、いわゆる消化不良というのと似ています。
胃が調子悪いとか、胃が痛いとか、日常的によくある症状ですよね。
ですが、例えば皆さんが「胃が痛い」と言っても、胃のあたりのことなので、胃そのものが本当に調子悪いのか、実際どこが患部なのかその時点ではわかりません。
胃なのか、十二指腸なのか。逆流性食道炎と言って、食道か。
あとは、胃の周りにはいろいろなものがありますよね。胆嚢があったり、膵臓があったり、大腸があったり。いわゆる我々が上腹部とか心窩部と言ったりしますが。
でも皆さんは全部総じて「胃が調子悪い」と言いますね。
ですから、萎縮性胃炎かどうかというのは自覚症状ではあてにならない、ということになります。
そのため、ABC 検診では、ピロリ菌の有無のほかに、この萎縮性胃炎の度合いもはかります。
それがペプシノーゲン法というものです。
ABC 検診では、この2つですね、ピロリ菌の有無の検査と萎縮性胃炎の度合いの検査を行います。
─ それでは、具体的にその2つの検査について教えてください。
分かりました。
1つ目ははピロリ菌に感染した形跡があるかないかを調べます。
ピロリ抗体が陽性か陰性か、ということです。
ピロリ菌というのは土の中にいる雑菌ですけれども、それが胃の中に長くいることによって、身体がそれを認識してピロリ菌に対する抗体を作ります。
これはほぼ、感染を長くしていれば、抗体はできてくるのですが、その抗体の有無を調べます。
2つ目は、萎縮性胃炎かどうかを調べるのですが、これはペプシノーゲンという物質の検査をします。
ペプシノーゲンという物質が、血中で増えているか減っているかを調べます。
ペプシノーゲン法で陽性というのは、委縮が進んでいるというバロメーターです。
これら二つの検査結果を合わせABCDEという五つのグループに分けます。
ABC 検診の判定の仕方
ABCDは、ピロリ菌が陰性か陽性か、ペプシノーゲンが陰性か陽性の組み合わせで分けます。
A群は、ピロリ菌もいなくて、萎縮性胃炎も起こしていない。
これは健全な胃なので大丈夫です。
B群は、ピロリ菌がいるんだけれども、胃の委縮が進んでない、まだ、萎縮性胃炎になっていない。
B群の場合はピロリ菌を退治してあげなくちゃいけない。
将来的には、ペプシノーゲン法が陰性(萎縮性胃炎ではない)であっても、そのままにしておくと、ピロリ菌がいることによって、C群になってしまうかもしれないので、この菌を退治してあげなくてはなりません。
C群の場合は、ピロリ菌もいるし、胃も萎縮しているため、癌が発症する可能性があります。
その為、ピロリ菌を退治する必要があります。
また、癌があるかどうかを、内視鏡で見る必要があります。
D群は、ピロリ菌がいなくて、かつ、胃が萎縮している。
これは、実はピロリ菌がいないんじゃなくて、ピロリ菌が途中からいなくなってしまったということなんです。
Eというのは、ピロリ菌が以前いたんだけれども、ピロリ菌が治療して消してしまった人です。
BCDEに関しては、内視鏡を受けたほうがいい、受けなくてはならないです。
─ 普通に胃粘膜が収縮するようなこと、つまり、癌とかではないんだけれども、胃が萎縮するようなことはあるのでしょうか。
そういうケースもあると思います。
ピロリがなくて萎縮がすすんでいるというのは、ピロリ菌も住めないような環境になってしまってる、胃の委縮が進んでしまってる、という風に考えられます。
ピロリ菌がいなくなると、ピロリ菌に対する抗体もだんだん少なくなってしまいます。
ピロリ菌はちっちゃいころに感染すると言われていますが、胃の委縮が進んで何十年も経ってる人もいます。
そうすると、その間に、抗体がなくなっちゃう、ピロリ菌もいなくなって、荒れ果てて。
それでその人は、人為的にはピロリ菌を除菌していないんだけれども、以前いたということで、E判定と同じ扱いになります。
ピロリ菌がいたことがあれば、癌のリスクに繋がります。
おまけに、萎縮性胃炎があると。
─ 病気の進む方向は、BCDと進むということでしょうか?
そうです、BCDと、危険の度合いはだんだん高くなっていきます。
BCDだったら、内視鏡で見て、細胞診をする必要があります。
ピロリ菌がいる場合は組織診断をします。
肉の塊を、例えば1mmぐらい取ってくる。これは、細胞診でなく、組織診断です。
まずは、内視鏡でみて癌と思し召し所、ようは、ここは癌だな、癌かもしれないなというところを、視認で見つけます。
やみくもにとるわけではありません。
そこの細胞を構成している組織が癌か癌じゃないかを調べます。
どこも癌ぽく無いなというときは、そのままで、経過観察をします。
組織診断の結果はすぐにわかるのでしょうか?
だいたい、4日から1週間程度でわかります。
ABC検診、内視鏡、細胞診という流れで検査をしますが、これら一連の検査はかなり早く結果が分かります。
特に、ABC検診は血液をとるだけなので。
組織診断の結果が良くなかった場合は、病院の内科か外科に紹介します。